土木学会水理委員会水文部会研究集会in沖縄

土木学会水理委員会 平成13年度, 14年度水文部会長 中北 英一

1.水文研究集会再立ち上げの動機と目的

(1)動機

 思い起すと,私の世代が水文分野での実質的な深い研究会にデビューさせていただいたのは,およそ15年ぐらい前の水文小委員会(当時)の筑波での現地見学会ならびに研究討論会であった.青二才の私ども新参者を暖かく向かえ入れていただいたのを記憶している.そのときはPrecipitation Fieldの紹介をの任を,竹内水文小委員長のプッシュのもとに,椎葉先生や小池先生とさせていただいたり,次年度の名古屋で木曽三川や輪中の現地見学を行った研究集会では小池先生がリモセンの世界に入られた直後でのその重要性を訴えられたことを思い出す.それが,今につながっている.

(2)目的

  水文部会の新旧メンバーや関係者の相互理解を深めるために,新たに水文分野に加わった若い研究者・技術者の参加も得た形で,昔のような極めてat home な現地見学を含めた研究会(地元の専門家の意見も聞きながら)を企画する.たとえば,昨今のダム批判論や緑のダム論に対して,土木工学は水文学上(現象的かつ計画論上の)客観的な情報をますます提供すべき時期が来ている中,政治ではなく工学という視点(現象論,計画論)に立ち返った集会を企画する.

  

2.参加者名簿

1.沖 大幹(総合地球環境学研究所助教授)
2.風間 聡(東北大学土木工学専攻助教授)
3.児島 正一郎(通信総合研究所沖縄亜熱帯計測技術センター研究員)
4.佐山敬洋(京都大学都市環境工学専攻博士課程1年)
5.杉本聡一郎(電力中央研究所研究員)
6.鈴木善晴(宇都宮大学建設学科助手)
7.清水芳久(京都大学工学研究科環境質制御センター(都市環境工学専攻)助教授)
8.高田 望(日本気象協会関西支社気象情報部研究員)
9.立川康人(京都大学防災研究所(都市環境工学専攻)助教授)
10.田中賢治(京都大学防災研究所(都市環境工学専攻)助手)
11.田中岳(北海道大学工学研究科環境資源工学専攻助手)
12.中川勝広(通信総合研究所沖縄亜熱帯計測技術センター研究員)
13.中北英一(京都大学都市環境工学専攻助教授)
14.中津川誠(北海道開発土木研究所環境研究室室長)
15.増田有俊(日本気象協会関西支社気象情報部研究員)
16.森山聡之(宗城大学土木工学科助教授)
17.芳村 圭(東京大学生産技術研究所研究委員)
18.手計太一(独立法人土木研究所研究員)
19.三輪賢志(内閣府沖縄総合事務局開発部河川課長)
 

3.行程

平成15年4月3日(木):

  12:30 バスで那覇空港を出発
  14:15 独立行政法人通信総合研究所沖縄亜熱帯計測技術研究センター(恩納村)着
  14:30〜18:00 研究会ならびにセンターの見学
  19:00〜   ホテルでの宴会&討論会(PCプロジェクターを使用した研究会;参加者の興味有るところや問題意識を紹介し会う)

平成15年4月4日(金):

  8:30 沖縄本島北部のテクニカルツアー(ゆったりと普段感じられない事を感じるテクニカルツアー)
  18:00 那覇市内のビジネスホテルに到着 
  19:00  その後、沖縄料理の居酒屋にて懇親会 &討論会(移動はタクシー)

平成15年4月5日(土)

  朝食後:解散
  6日は日曜日ですので、参加者各人の意志により更なるリフレッシュ。
 
 

4.研究会の内容

 1.「亜熱帯環境計測技術の研究開発」 独立行政法人通信総合研究所沖縄亜熱帯計測技術研究センター 藤井センター長

   与那国島,宮古島に設置したデュアル海洋レーダー,二偏波ドップラーレーダー&バイスタティックレーダー,ウインドプロファイラーの開発経緯ならびに観測結果について説明を受けると共に,同センターの研究拠点構想の説明を受けた.

 2.「沖縄本島ダム事業の概要」沖縄総合事務局開発建設部河川課 三輪課長

 沖縄本島におけるこれまでの渇水状況,沖縄本島の河川流域の特殊性(流域面積が小さい,最大流量に比べて最小流量が極めて小さい等),水利用特性(生活用水の比重大),北部ダムの開発事業と統合管理,石垣島を含めた赤土被害の現状と農水と一体化した総合対策などの説明を受けた.
 沖縄では治水対策もさるものながら渇水対策が大きな課題であることを,初めて認識した参加者が多かったのではないだろうか....このことは,北部ダム群の統合管理の見学,各家屋の屋上に存在する水道水の貯留施設をみることで,さらに実感を持って認識するに至った.

5.センター見学内容

  降雨観測設備、海洋レーダー、レーダー電波相互干渉実験設備,一般向け常設展示室
 
 

6.テクニカルツアーの内容

 平成15年4月4日(金):

 8:30:かりゆしビーチホテルをバスで出発
 10:00〜12:00:電源開発(株)沖縄海水揚水実証試験所(海水揚水発電所)
 12:30:つつじエ子パークにて昼食
 13:30:北部ダム統合管理事務所福地ダム管理支所
 14:30:アザカ川
 15:30:沖縄亜熱帯計測技術研究センター名護降雨観測施設(二偏波ドップラーレーダーサイト)
 18:00:那覇シーサイドホテル着
 

7.感想

 しさしぶりのフランクな研究集会に,参加メンバーには基本的に満足いただいたようである.特に,多々ある研究会の中,今回のような,宴会をしながらの研究会は始めての経験であり,貴重であるとの意見も頂いた.また,2泊とも,宴会&研究会後もホテルの一室やロビーで集合して参加者のみんな夜中過ぎてまで語り合えたことも,楽しい一体感が持てたひとときであった感じている.
 また,今回は今後水文研究と深い関わりをもってゆく環境工学の研究者からの参加も得たことが,研究会開催の趣旨から極めて喜ばしい事であった.
 ただ,参会費が割高になったことは反省点である.若手の参加をも考慮する今回のような企画では,参加者負担が基本でない方が良いとの考え方で進めたが,それでも今回不十分であったと認識した.
 

8.費用

参加費 14,000円(ホテル代別)
土木学会水理委員会会からの補助:125,000円(移動バス費用,研究会会場費用の一部)
 

9.今後の予定(次期部会へ参加者からのお願い)

 最終の懇親会時に,水文研究集会を今後も継続して行こうという結論に今回の参加者間で達した.もし,次期水文部会で企画に合意が得られるならば,次回研究集会を北海道で開催することを次期水文部会にお願いすることで意見が一致した.また,その際には中津川誠様(北海道開発土木研究所環境研究室室長)に世話役を頂くこと,ご了解を頂いた.
 

10.謝辞

 本研究集会では,

通信総合研究所沖縄亜熱帯計測技術センター:中川勝広様,児島 正一郎様
内閣府沖縄総合事務局開発部:萬徳 昌昭様,三輪賢志様
電源開発(株)沖縄海水揚水実証試験所:佐藤泰明様をはじめ所員の皆様
内閣府沖縄総合事務局開北部ダム統合管理事務所:内里清一郎様,福地ダム管理支所長様,広報ご担当職員様

には,現地では大変お世話になりました.特に,三輪様には行程の実行可能案のご提案,話題提供,バスツアーへの同行,懇親会への出席など本当に様々お世話になりました.
 また,

電源開発(株):嶋田善多様
独立法人土木研究所:吉谷純一様

には,上記お世話になった方々をご紹介いただきました.さらに,ツアーのバス費用は土木学会水理委員会(土木学会学術文化事業費)からサポートいただきました.

 以上,あわせて御礼を申し上げます.

 最後になりましたが,中川勝広様には,交通手段,宿泊,会議場,宴会場の一切の手配,当日の幹事役等本当に様々でお世話になりました.中川様の大きなご助力なしには本研究集会は実現不可能でした.あらためまして,深く謝辞を申し上げる次第です.ありがとうございました.

 そして,なによりも,今回忙しい時間を割いて参加いただきました皆さんに深く感謝申し上げます.皆で,仲間って思えましたこと,本当に嬉しく思っております.今後とも,一緒に頑張りましょう!
 
 
 

11.写真で見る研究集会の様子報告

 以下は,少しくだけた報告です.上記の公式な報告とは別に報告申し上げる事項ですので,その点ご了解下さい.
 なお,以下はすべて「さん」付けで報告させていただきます失礼お許し下さい.

(1)初日(4月3日(木))

 

いよいよ那覇空港で集合(立川さんと鈴木さんです).これから,研究会会場に皆で貸し切りバスで出発です.


沖縄亜熱帯計測技術センターに付く前に,研究所すぐ脇の観光地「万座毛」(左写真)をいきなり訪れました.これから崩れる予定のがけの上に居るリラックスしまくりの人は誰でしょう?(中央写真) 森山さん,清水さん,高田さんもリラックス(右写真)

那覇空港をバスで出発後約1時間で万座毛を観光した後,

初日の研究会・見学会の場である通信総合研究所沖縄亜熱帯計測技術センターに到着しました.

きれいですね...長期研究滞在用の宿泊施設もあります....禁煙以外は,うらやましい限りです.
 
 
 

通信総合研究所沖縄亜熱帯計測技術センターでの研究会時の様子です.

先ほどのいきなりの観光地での顔つきとは変化しているのがわかりますか?

 

 
 
 
 


 

研究会,見学会後,通信総合研究所沖縄亜熱帯計測技術センター屋上のバイスタティックレーダー(受信機)そばでのでの集合写真(上:中北撮影,下:佐山さん撮影)です.再びリラックスしている人〜〜研究後で怖い顔をしている人まで様々です.

(最後列)電波干渉実験用レーダー
(後列)増田,手計,高田,田中(岳),芳村,沖,清水,中北or佐山,鈴木,田中(賢治),森山
(前列)立川,杉本,中川,風間,中津川
(左横)バイスタティックレーダー受信機

みんな,仲間です.それと....


 

翌日訪問した主レーダー(Cバンド二偏波ドップラーレーダー)です.これから,最先端として活躍します.

苦労して,立ち上げた某さん頑張ってください.皆でサポートします.
 


 

宴会&討論会(PCプロジェクターを使用した研究会;参加者の興味有るところや問題意識を紹介)の様子です.写真は沖さんの発表に対して,環境工学系から参加いただきました清水さんがつっこんでいます....万座毛の崖は崩れなかったようです.しさしぶりに,目から鱗が落ちるような一時でした.

 ホテルの宴会場での発表設備...仲居さんをびっくりさせた今回の集会の目玉の一つです.皆さんPCを持ってきて,訴えたいことを公表していただきました.

 結局,時間延長して3時間ほど費やしました.スクリーン,ホワイトボード,PCプロジェクターは,40分ほど南の沖縄亜熱帯計測技術センターから持ち込んでいただきました.中川さん,児島さんありがとうございました.

 この後,ホテルの一部屋に集合して,真夜中を遙かに越えてオリオンビールを飲みながら語り合いました.中川さん,児島さんは,その後,那覇まで帰って,朝再び来てれました.同室の,清水さん,中北がベッドに入ったのは,朝の4時でした.

 

(2)初日(4月4日(金)):テクニカルツアー

 

 A. 電源開発(株)沖縄海水揚水実証試験所


電源開発(株)沖縄海水揚水実証試験所(海水揚水発電所)の全容説明図です.

縦坑を下って,発電所,下池の取水口,上部調整池周辺を見学させて頂きました.下池は太平洋です(恥ずかしながらはっきり言って,海水を揚水していることは,ここに来て初めて認識しました).この実験所建設後,関西電力でも下池を琵琶湖にした揚水発電所計画があったとの話を,6月初めに関西電力の方からお伺いしました.

発電所上部を見学中です.エレベータの容量制限から,3グループに分けてご案内頂きました.


制御室でご案内頂いている,佐藤所長代理様です.



 

上池周辺(後ろに上池が見えます)の環境対策の説明を受けているところです.

風間さんの同期の方も,ここの所員としてご案内頂きました.

 

 
 
 
 
 
 

 B. 沖縄北部ダム群による統合管理


沖縄本島ダム位置図です.(図は,上記「沖縄本島ダム事業の概要」沖縄総合事務局開発建設部河川課発表資料より)



 

北部ダム群最下流の福地ダム.計画はアメリカによって立案され,その後沖縄本土復帰に伴い建設省に計画,施工計画が引き継がれた.



 

福地ダムサイト展示質において,北部ダム群5ダムの位置関係,管理について説明頂いている様子.この後,展示室にて,水資源管理や沖縄の水資源事情の歴史の説明を頂戴した.背広姿は,ずっと随行頂いた三輪課長様です.

北部ダム群5ダムの管理計画図.大小の貯水池を統合管理している(渇水対策がメイン).(図は,上記「沖縄本島ダム事業の概要」沖縄総合事務局開発建設部河川課発表資料より)


福地ダムサイトで,統合管理の説明を受けた後の記念写真.

後列左が,沖縄総合事務局開北部ダム統合管理事務所管理課長の内里清一郎河川課長様,前列左がツアーに同行いただいた沖縄総合事務局開開発建設部の三輪賢志河川課長様.前列真ん中が北部ダム統合管理事務所の広報担当の職員様(すみません,名刺を頂戴しませんでしたのでお名前を再確認させていただきます).撮影は,福地ダム管理支所長様がしてくださいました(すみません,名刺を頂戴しませんでしたのでお名前を再確認させていただきます).
 
 

C. 沖縄独自の状況

赤土流出を物語る斜面.こういった斜面は植生の中の裸地として,至る所に見られましたが,赤土流出の最大面積はパイナップル畑等の農地とのことで,その様子もバスでの移動中に散見しました.農水と一体化した総合対策の必要性を実感したひとときでもありました.


北部ダム群の一つの貯水池が海岸に接近しており,ダム提体の上流反対側に貯水池から海への直接の洪水吐きが設置されている.むらやましいって思う方がいらっしゃるかも知れません.



 

 アザカ川干潮区間のマングローブ.海水揚水発電所へ行く途中に見たときは満潮時で水面に覆われていたいましたが,帰りに今一度撮影の機会が有るとバスに止まっていただきませんでした.あさはかでした.これは帰る途中に撮影したもので,既に潮が引いていました.

河口閉塞している川です.本島のほとんどの河川が,このように,平水時は河口閉塞しているとのことでした.中津川さんが非常に興味を持たれて,上流側にも撮影のために走って行かれました(後ろに,小さな交通渋滞をつくりながらも,バスをしばし止めていただきました).....ってことで,テクニカルツアーも,皆さんに楽しんで頂けました.